大和寝倒れ随想録

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2024年3月10日 礼拝説教 『はじめのバビロンシステム』

 創世記4章17節から24節をお読みいたします。

 カインはその妻を知った。彼女はみごもってエノクを産んだ。カインは町を建て、その町の名をその子の名にしたがって、エノクと名づけた。エノクにはイラデが生れた。イラデの子はメホヤエル、メホヤエルの子はメトサエル、メトサエルの子はレメクである。レメクはふたりの妻をめとった。ひとりの名はアダといい、ひとりの名はチラといった。アダはヤバルを産んだ。彼は天幕に住んで、家畜を飼う者の先祖となった。その弟の名はユバルといった。彼は琴や笛を執るすべての者の先祖となった。チラもまたトバルカインを産んだ。彼は青銅や鉄のすべての刃物を鍛える者となった。トバルカインの妹をナアマといった。

 レメクはその妻たちに言った、

「アダとチラよ、わたしの声を聞け、レメクの妻たちよ、わたしの言葉に耳を傾けよ。わたしは受ける傷のために、人を殺し、受ける打ち傷のために、わたしは若者を殺す。カインのための復讐が七倍ならば、レメクのための復讐は七十七倍」。

(口語訳聖書)

 それでは『はじめのバビロンシステム』と題してお話させていただきます。

 前回は、弟のアベルを殺してしまったカインが呪われ、地を彷徨うことになってしまいました。しかし、神さまから命を守る印を付けられ、そこからアダムとエバのように再出発しました。

 カインはその妻を知った。彼女はみごもってエノクを産んだ。カインは町を建て、その町の名をその子の名にしたがって、エノクと名づけた。

 命を守る印を与えられ再出発したカインが、子どもをつくって町を建てました。さらに、自分が建てた町に名前をつけています。何かをつくって名前をつけるというのは、はじめの創世神話に似ています。

 神の像としての役割を果たして地上を治めているのか、それとも自分が神であるかのように振る舞っているのか、今の時点ではどちらとも取れるように思います。いろいろ想像をかきたてられます。

 エノクにはイラデが生れた。イラデの子はメホヤエル、メホヤエルの子はメトサエル、メトサエルの子はレメクである。レメクはふたりの妻をめとった。ひとりの名はアダといい、ひとりの名はチラといった。アダはヤバルを産んだ。彼は天幕に住んで、家畜を飼う者の先祖となった。その弟の名はユバルといった。彼は琴や笛を執るすべての者の先祖となった。チラもまたトバルカインを産んだ。彼は青銅や鉄のすべての刃物を鍛える者となった。トバルカインの妹をナアマといった。

 いつの間にか一夫多妻制になっています。男性と女性の対等な関係は完全に破壊されてしまいました。

 ここではカインの系譜が記されていますが、実は神話では、系譜というのはとても重要です。古事記でも神々の系譜と共に、天地創造の様子が語られます。

 同じように聖書では、物語と共に人間の系譜が描かれています。もしかしたら、聖書では神の像である人間が神々のような存在なのだと言っているのかもしれません。そのように考えると、やはり神さまから人間に託された責任というのが、非常に重く感じられると思います。

 レメクはその妻たちに言った、

「アダとチラよ、わたしの声を聞け、レメクの妻たちよ、わたしの言葉に耳を傾けよ。わたしは受ける傷のために、人を殺し、受ける打ち傷のために、わたしは若者を殺す。カインのための復讐が七倍ならば、レメクのための復讐は七十七倍」。

 カインの子孫であるレメクは、2人の妻に向かって、「わたしの声を聞け」「わたしの言葉に耳を傾けよ」と言っています。まるで自分が2人の主人であるかのようです。そして、自分が敵対する者をやっつけたことを誇っています。自慢げに、自分を傷つけた者を殺すと言っていますが、自分の身を守るためというよりは、過剰な報復という感じがします。

 レメクのように女性を所有物のように扱い、自分の暴力性を自慢する、権力を持った男性というのは、現代の日本にも多いと思います。そして、そういう他人を大切にできず暴力的に振る舞う人が権力を持った時に、バビロンシステムが出来上がるわけです。バビロンシステムというのは、レゲエ音楽でよく使われる言葉で、権力者による抑圧的な支配体制を指します。

 せっかく再出発したカインですが、その子孫からバビロンシステムをつくる者が出てしまったわけです。しかも、命を守るために神さまがカインにつけられた印を引き合いに出して、「逆らうやつはぶっ殺す」とオラついているわけです。エデンの園の蛇のように、神さまの言葉を歪めて悪用しています。こうして、聖書の物語での、はじめのバビロンシステムが出来上がったのです。

 聖書の物語では、人間は神の像として、地上の平和を守るために造られました。しかし、自分が神のようになろうとして、自分で神のように善悪を決めるようになった結果、人と人が歪み合う苦しい世界を造ってしまいました。そして、アダムとエバから生まれたカインの子孫であるレメクもまた、王様のように振る舞い、自分で善悪を決めて人を裁くようになりました。人間は自分が社会の中央側にいると思い、自分が善悪の基準だと思うようになったとき、他人を周縁化するようになります。つまり、自分が善悪の物差しになってしまうことで、自分の考えを絶対化してしまい、他人を粗末に扱うようになってしまうのです。そして、そういった人が世の中で力を持った時にバビロンシステムが出来上がります。

 しかし、これは権力者だけの問題ではありません。私たちもまた、時に自分を絶対化して他人の想いや感情を粗末にしてしまうことがあります。そんな時、日常の友人関係や家族関係の中で、誰かが誰かを粗末にしてしまう小さなバビロンシステムが出来上がってしまうのです。

 そういう意味では、バビロンシステムは全ての心の中にあると言えるでしょう。

 カインは罪に襲われ、兄弟関係の中で殺人事件を起こしてしまいました。そして、その系譜の中から、罪に捕らわれてはじめのバビロンシステムをつくるレメクが登場しました。バビロンシステムは私たちの心の中からはじまるということを心に留め、平らかな心で生きていきたいと願います。