大和寝倒れ随想録

勉強したこと、体験したこと、思ったことなど、気ままに書き綴ります

わりと現代日本人向けのキリスト教入門13~「堕落」って何やねん?(後編)~

前回は ↓

nara-nedaore.hatenablog.com

第1回目は ↓

nara-nedaore.hatenablog.com

 

はじめに

 どうも、ねだおれです。

 今回は、「堕落って何やねん?」後編いきます。

アダムの系譜

創世記5章1~32節

 これはアダムの系譜(トルドート, Todot)の書や。神さま(エロヒーム, Elohim)が人を造らはった日、神さまに似せて造らはった。

 彼らを男と女に造らはった。そえで、祝福してアダムて呼ばはった。彼らが造られた日に。

 

 そえで、アダムは130年生きて、彼に似せて、彼の形に息子生んで、セトて名づけた。

 そえで、セト生んでからのアダムの日ぃは800年やった。そえで、息子らと娘ら生んだ。

 そえで、アダムが生きた全部の日ぃは930年やった。そえで死んだ。

 そえで、セトは105年生きて、エノシュ生んだ。

 そえで、セトはエノシュ生んだ後、807年生きて、息子らと娘ら生んだ。

 そえで、セトの全部の日ぃは912年やった。そえで死んだ。

 そえで、エノシュは90年生きて、カイナン生んだ。

 そえで、エノシュはカイナン生んでから850年生きて、息子らと娘ら生んだ。

 そえで、エノシュの全部の日ぃは905年やった。そえで死んだ。

 そえで、カイナンは70年生きて、マハラレエル生んだ。

 そえで、カイナンはマハラレエル生んでから840年生きて、息子らと娘ら生んだ。

 そえで、カイナンの全部の日ぃは910年やった。そえで死んだ。

 そえで、マハラレエルは65年生きて、ヤレド生んだ。

 そえで、マハラレエルはヤレド生んでから830年生きて、息子らと娘ら生んだ。

 そえで、マハラレエルの全部の日ぃは895年やった。そえで死んだ。

 ヤレドは162年生きて、エノク生んだ。

 そえで、ヤレドはエノク生んでから800年生きて、息子らと娘ら生んだ。

 そえで、ヤレドの全部の日ぃは962年やった。そえで死んだ。

 

 エノクは65年生きて、メトゥシェラ生んだ。

 そえで、エノクはメトゥシェラ生んでからは300年神さまと一緒に歩いて、息子らと娘ら生んだ。

 そえで、エノクの全部の日ぃは365年やった。

 そえで、エノクは神さまと一緒に歩いとった。そえで、おらんようなった。神さまが取らはったよって。

 

 そえで、メトゥシェラは187年生きて、ラメク生んだ。

 そえで、メトゥシェラはラメク生んでから782年生きて、息子らと娘ら生んだ。

 メトゥシェラの全部の日ぃは969年やった。そえで死んだ。

 ラメクは182年生きて、息子生んだ。

 そえで、その名前をノアて呼んで「この子こそ、神さま(ヤーヴェ, Jahveh)が地面呪わはったことによる、わてらの仕事とわてらの手の苦しみを慰めてくれるやろう」て言うた。

 そえで、ラメクはノア生んでから595年生きて、息子らと娘ら生んだ。

 そえで、ラメクの全部の日ぃは777年やった。そえで死んだ。

 そえで、ノアが500歳やった時、セム、ハム、そえでヤフェト生んだ。

 

(共通語訳)

 これはアダムの系譜(トルドート, Todot)の書だ。神さま(エロヒーム, Elohim)が人を造られた日、神さまに似せて造られた。

 彼らを男と女に造られた。それで、祝福してアダムと呼ばれた。彼らが造られた日に。

 

 それで、アダムは130年生きて、彼に似せて、彼の形に息子生んで、セトと名づけた。

 それで、セト生んでからのアダムの日は800年だった。それで、息子たちと娘たちを生んだ。

 それで、アダムが生きた全部の日は930年だった。それで死んだ。

 それで、セトは105年生きて、エノシュを生んだ。

 それで、セトはエノシュを生んだ後、807年生きて、息子たちと娘たちを生んだ。

 それで、セトの全部の日は912年だった。それで死んだ。

 それで、エノシュは90年生きて、カイナンを生んだ。

 それで、エノシュはカイナンを生んでから850年生きて、息子たちと娘たちを生んだ。

 それで、エノシュの全部の日は905年だった。それで死んだ。

 それで、カイナンは70年生きて、マハラレエルを生んだ。

 それで、カイナンはマハラレエルを生んでから840年生きて、息子たちと娘たちを生んだ。

 それで、カイナンの全部の日は910年だった。それで死んだ。

 それで、マハラレエルは65年生きて、ヤレドを生んだ。

 それで、マハラレエルはヤレドを生んでから830年生きて、息子たちと娘たちを生んだ。

 それで、マハラレエルの全部の日は895年だった。それで死んだ。

 ヤレドは162年生きて、エノクを生んだ。

 それで、ヤレドはエノクを生んでから800年生きて、息子たちと娘たちを生んだ。

 それで、ヤレドの全部の日は962年だった。それで死んだ。

 

 エノクは65年生きて、メトゥシェラを生んだ。

 それで、エノクはメトゥシェラを生んでからは300年神さまと一緒に歩いて、息子たちと娘たちを生んだ。

 それで、エノクの全部の日は365年だった。

 それで、エノクは神さまと一緒に歩いていた。それで、いなくなった。神さまが取られたから。

 

 それで、メトゥシェラは187年生きて、ラメクを生んだ。

 それで、メトゥシェラはラメク生んでから782年生きて、息子たちと娘たちを生んだ。

 メトゥシェラの全部の日は969年だった。それで死んだ。

 ラメクは182年生きて、息子を生んだ。

 それで、その名前をノアと呼んで「この子こそ、神さま(ヤーヴェ, Jahveh)が地面呪われたことによる、私達の仕事と私達の手の苦しみを慰めてくれるだろう」と言った。

 それで、ラメクはノアを生んでから595年生きて、息子たちと娘たちを生んだ。

 それで、ラメクの全部の日は777年だった。それで死んだ。

 それで、ノアが500歳だった時、セム、ハム、それとヤフェトを生んだ。

 

 覚えてる人は覚えてるかもしれません。トルドート(系譜)がまた出てきました。

 そして、冒頭は今までの物語のおさらいです。

 すべての人間が神さまに似せて造られたということが、再び語られています。

 ちなみに、神の呼び方は「エロヒーム」で、創世記1章と一緒です。

 次に、めちゃくちゃ長い系譜が続きます。しかも、内容はほぼコピペです。

 現代人が読むと「は? なんでこんな長ったらしい系譜あんねん」って感じになるかもしれませんが、この系譜については、メソポタミア『シュメール王のリスト』との関連性が指摘されているようです。

 なので、他の古代文明の伝承に対抗する形でこの系譜が挿入されているかもしれません。

 また、「なんでこんな寿命長いねん。出鱈目やん」と思われる方も多いかもしれませんが、大丈夫です。『シュメール王のリスト』も寿命がめちゃくちゃ長いです。現代人の感覚ですと、「古代人は現代より栄養状態も衛生状態も良くないから、早死にしてそう」となりますが、古代人は「きっと神代に近い時代の偉大な人々は、我々よりめちゃくちゃ長生きしたのだろう」と考えたのかもしれません。ちなみに、古事記に出てくる古代の天皇も、めっちゃ長生きです。

 とりあえず、みんなやたらクソ長い寿命なわけですが、生まれて生んで死んでをひたすら繰り返します。

 名前と数字以外一緒やんと油断していると、エノクだけは死なずに神に取られます。どこへ行ったのでしょうか?

 最後に、割と有名な人物「ノア」が登場します。彼は父親から「慰めを与えてくれるだろう」という期待をかけられています。ちなみに、ノアは「安らぎ」または「慰め」といった意味だそうです。

 そして、ノアが3人の子どもを生んだところで、このトルドート(系譜)は途切れています。

思いめぐらす

 それでは、例によって例のごとく、この聖書箇所についてゴニャゴニャ考えてみます。

人々の系譜

 古代の神話では、系譜が割と前面に出てきます。シュメール神話でもエジプト神話でもバビロン神話でも、さらには大和(奈良)で編纂された古事記においても、神々の系譜が始めに語られます。そして、王は神々の子孫であるという風に、王が宗教的に権威づけられます。

 エジプト神話やバビロン神話についてはまだ調べていないので何とも言えませんが、その後神々の系譜から王の系譜へと移り変わり、その時代の王もまた「神々の子孫」として、宗教的に権威づけられるというのは、多くの多神教文化に共通していると思われます。

 古代中近東において、王は政治的支配者であり、祭司でもあったようです。そして、王は「神々の子孫」であるがゆえに、「神の像(似姿)」として、つまり神の代理人としてその国を支配していたのでした。聖書はそういった古代中近東の多神教文化の中から紡がれた、神と人の物語でした。

 現代人による議論では「一神教多神教の違い」という視点で展開されることが多いですが、キリスト教がヨーロッパの「国家宗教」となった後に形成された思想を脇に置いて聖書を読み直すとき、多神教文化との連続性が見られます。そして、古代中近東の文化を軸に聖書を捉えたとき、聖書の新たな姿が浮かび上がります。

 神の像(似姿)・神の代理人、そして系譜。

 聖書においては、全ての人間が神の像(似姿)つまり神の代理人です。そして、聖書の系譜は初めから、「普通の人間」の系譜が語られるのです。しかも、偉大な英雄などではありません。もしかしたら、平均よりもダメダメかもしれません。唆されて悪事を働いたり、嫉妬から暴力的な行動に走ったり、人間のダメダメな所が語られます。しかしそれでも、人間は「神の像」なのです。

 聖書は、そんな人間の系譜を初めに記します。神々の代わりに、人々の系譜からスタートします。そう考えると、聖書は人間の地位をかなり高めに描いていると言えるかもしれません。もしかしたら、聖書の中で多神教における「神々」のポジションを与えられているのは、人々なのかもしれません。

 私は古代中近東の人ではないので、確かなことは言えませんが、少なくとも現代人が考える「一神教」と聖書が本来描く世界観は、かなり違うのだと思います。

聖書、系譜(トルドート)めっちゃ出てくるやん
(ちなみに福音書でも出てくる)

義人エノク~神に取られたが大丈夫か?~

 ルシフェル「そんな展開で大丈夫か?」

 イーノック「大丈夫だ。問題ない」

 

 知る人ぞ知るゲームソフト、エル・シャダイの主人公イーノックヘブライ語名はエノクです。ゲーム『エル・シャダイ』におけるイーノックの設定は紀元前1世紀~2世紀らへんに書かれたエノク書を元にしているようですが、このエノク書は、今回説明した物語の「二次創作」にあたります。

 なので『エル・シャダイ』は創世記の三次創作にあたります。

 エノクは後に大天使メタトロンになったとする説もあるそうですが、創世記の中ではどうなったか語られていません。

 どこへ行ったのでしょうか?

 とりあえず、死んではいないようです。

 取ってどこに置いたのでしょうか。

 そういえば、アダムがエデンの園に置かれた時、「取ってエデンの園に置いた」と語られていました。

 もしかしたら、エデンの園に置かれて、生命の木の実を食べさせてもらえたのかもしれません。

 エノクの結末について、詳細は不明ですが、少なくとも「正しく歩んだので、死を経験することなく安全な所に連れていかれた」というのは確かだと思います。

 すると、人間は罪に誘惑される弱さを持っている一方で、神と共に歩むことによって、正しく生きることもできるし、それが命につながるのだというメッセージを、この物語は発しているのかもしれません。

ヒトさんチームの希望、ノア

 系譜(トルドート)の最後に来るのは、ノアとその子どもたちです。ノアは、洪水伝説で有名なノアです。

 ノアの父親は、ノアが生まれた時、ノアが自分達の苦しみを慰めてくれるだろうと期待していたと描かれています。もしかしたら、エデンの園でアダムとエバがバイトテロをやらかした時に語られた、「ヘビの頭を傷つける人間」はノアのことではないかと期待したのかもしれません。

 アベルの補欠(?)として生まれたセトから始める「ヒトさんチーム」の系譜は、ノアに繋がったのです。この一族が、神さまから選ばれた「世界修復のためのパートナー」ということになります。

 神さまは、常に人間のパートナーを選ばれます。聖書において神さまは、絶対君主としてこの世界をワンマン経営しているのではなく、常に人間の代理人と共に働かれる存在としえ描かれています。

 まるで、神さまがこの世界で働くには、常に人間の協力が必要であるかのように。

おわりに

「人類の堕落」という問題について前編と後編に分けて考えてきました。

 まとめると、

  • 人間は本来「罪」を支配すべきであるが、逆に「罪」に支配され悪事を働いてしまいがち。
  • 人間は皆弱さを抱えているが、神は人間が「罪」を治め、善を行うことを期待している。
  • 「罪」の誘惑に負けたら即アウトというわけではなく、やり直すチャンスはある(アベルを殺したカインは、印によって守られた)

 という辺りでしょうか。

 そう考えると、人間は人生のいろいろな場面で、「罪」の誘惑に敗北して悔い改めたり、逆に「罪」の誘惑に勝利したりしなが生きているのかもしれません。

「この世の人間はヒトさんチームとヘビさんチームに分けられる」と言うよりかは、「時には誰もがヒトさんチームに成り得るし、ヘビさんチームにも成り得る」という感じなのでしょう。

心の中の「ヘビさんチーム」と「ヒトさんチーム」
勝つのはどっちだ!?

 そこから考えると、「アダム個人の罪によって、被造世界の調和が損なわれた」という「教義」も大切なのかもしれませんが、「個人の罪が世界を壊す」という、現代を生きる私達自身の弱さの問題に向き合うことは、もっと大切なのかもしれません。

 ゲーセンでの初心者狩りは、初心者の参入を妨げることになり、結果的にゲーセンの衰退につながります。

 ゲーム機などがよく転売されますが、ゲーム機がユーザーに流通せず転売屋が買い占めることで、ゲーム機は売れてもソフトは売れないという状況になり、結果的に業界が損失を被ると言われています。

 サービス残業と称する賃金未払いや、劣悪な労働条件での酷使は、消費者である労働者の消費力を奪い、結果的に経済全体を疲弊させます。

 初心者狩り転売ヤーも悪徳企業(いわゆるブラック企業)も、自分にとっての「善(トーヴ)」を行いますが、それが人と人との関係を破壊し、「悪(ラー)」につながります。

 聖書における「人類の堕落」とは、「この世界が残酷なのは、アダムとかいう人が神に背いたからだよ」という起源譚に終わるのではなく、「今、ここ」における私達の生き方を問うものなのかもしれません。

自分にとっての「善(トーヴ)」が社会を破壊することもある

 次回は、わりと有名なノアの方舟の話です。

 

参考資料